これから車椅子を作る人へ -6

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補助金問題

役所とモメる覚悟はいるかも

 1989年によーのすけがチタンの車椅子を作ったときには、

という状況でした。よーのすけは、ドライバーとなるにあたって、どうしても軽い車椅子が必要でしたし、上体に力がないため、駆動効率の良い車椅子が必要でした。処方された車椅子は、車椅子のトップレベルの専門家T氏が処方した最新の車椅子だったのです。「こんな車椅子は交付したことがない、という(当たり前だ、最先端技術なんだもの)担当者に、「使えない車椅子10台もらってもしょうがない」と粘り、「それなら交付なんていらない」と、母は啖呵を切ったものです。

 そのうちに、行政側から、ここのメーカーで作れば、補助を出す、というオファーがありました。しかし、T氏の見立てでは、たぶん品質に問題があるとのこと。何しろオーダーメードですから、できてくるまで何ができるかわからないんです。免許に間に合わなくなりかけて業を煮やした我々は、ほとんど見切り発車で、予定通りの車椅子を作ることに決めました。あとから、行政推薦業者のチタン車椅子を見ましたが、「うぅっ、これは…」という、よーのすけから見たら今ひとつの出来映えでした。 この車椅子は、12年間私を乗せて動いてくれ、今は、セカンドマシンとして現役を退きましたが、非常にいい車椅子でした。

 結果的には車椅子は交付となり、最高限度額まで出て、あとは自己負担ということになりました。

 車椅子ユーザーにとって、車椅子はやはり、「自分のもの」だと思います。お仕着せではなく、自分で買う高い買い物だ、というつもりで、作りたいものです。

 行政側の拒否は、理屈ではなく、「前例がない」「通達がこうだ」ぐらいしかないので、理性的説得というよりは、気分はゴネ合戦、不毛な気分になりますけどね。担当者も「変だなあ」と思っているのがわかったりすることもあります。

「車椅子が交付される」意味

 ここまで見てくれた方々。車椅子の「補助金」ではなくて、「車椅子の交付」という言葉を使っているのにお気づきですか。そう、福祉機器は、なんと、貨幣経済が浸透した今日でもなお、現物給付が建前になっています。「手帳で作る」という場合が、これにあたると思われます。
 前図車椅子製作の流れを見ると、車椅子ユーザーと車椅子メーカー(代理店)の間に、何の契約関係もないのに気付くと思います。そうです。車椅子は、ユーザーが発注するのではなくて、行政が発注してユーザーに交付するという建前をとっています。その発注業務を代行するのが医師だという形式になってます。発注するのが行政だから、発注先も行政が決められるというわけ。言いたかないけど、いかにも汚職の温床になりそうな。
 ここでは、理屈の上ではユーザーは口を挟めないことになっています。

 こうした制度は、「最低限を保証する」という発想には確かに沿っています。一見、無駄遣いをさせず、必要なものだけを給付しているように見えます。
 しかし、すでに見たように、規定内なら使えないものでもいくつでも給付できるが、規定外だけど必要なものが給付できない、ということも起きます。なにより問題なのは、規定内でしか仕事ができないので、業者の開発意欲がそがれるということではないでしょうか。
 よーのすけは、車椅子だけでなく、何種類かの補装具を作ってきました。しかし、どうも、こちらの要求よりも、「手帳の範囲で作れるかどうか」に、業者の関心が集中しているように見えて仕方がないのです。本当はそうではないと思いますが、そのように感じてしまうという状況があるのは事実です。
 補装具は、大量一律生産でコストを下げる、というわけにはいきません。ま、そういう時代 −人々が皆補装具使う−になったら、それはそれでコワいというか、あるいはいい時代になるかもしれませんが、それはおいといて。良い商品作って、大量にさばいて大儲け、というわけにはいかないので、開発が進みにくい世界です。そうした後進性を今の制度は促進しているのではないか、と思えなくもありません。

最後にエールを

 主体的に作ることが大切です。情報が少ないので大変ですが。
 メーカーに、他社の製品情報を訊ねるわけにはいかないのはもちろん、医療機関も出入りの業者の情報しかありません。 甚だしいと、同じ医療機関でもかかっている部署によって、出入りの業者が異なり、使い物にならない車椅子を処方されたりします。 インターネットがそれなりに整備されてきた今日では、かなりマシになってきたとは思いますが、それでも、まだ不十分です。さらに医療機関を説得して、自分で探してきた車椅子メーカーとコンビを組ませ、よくわからない理屈で文句をタレるお役所を説得するのは、とってもとってもエネルギーを消耗する仕事だと思います。
 がんばるという言葉は人にかけるべきではないと思っていますが、 これに関してだけは、言いますよ。

がんばれー 粘れー 負けるなよー

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車椅子で彷徨えば扉
Yoonosuke Hazuki[MailTo_ocean@mbc.nifty.com]