靴探し放浪記

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歩けなくても靴は必要

 「歩けない人に靴は必要か。」 車いすに乗っている人には靴は必要がない、と思う人は多いかもしれません。けれども実は車いすに乗っていても靴は必要です。歩けない人以上につま先を傷付けやすいからです。脊損などで感覚のない人であれば、傷が付いても本人が気付かなかったりしますので、靴を必ず履きます。また、不随意運動がある人や緊張が激しい人は、靴を履いていないとトンデモナイ怪我をすることがあります。

 そして、車いすに乗っているからといって全く歩けない、とは限りません。中には掴まり歩き、伝い歩きをしたり、自立歩行が出来る人もいます。しかし、考えてみれば当たり前なのですが、この人たちが歩く、というのは、歩けない身体で歩くということなのです。従って、靴の合う合わないは健常者以上に重要な問題となってきます。靴によって歩けたり歩けなかったりします。人によっては、靴に変えて「靴型装具」俗に言う「矯正靴」なんてものを履いたりします。

よーのすけと靴の関係

幼児期

 よーのすけ、子どもの頃から靴には苦労してました。とにかく脱げるんです。足首が内側にぎゅっと曲がる上、足の裏が反っくり返ってしまうので靴が逃げるわけ。まだマジックテープバリバリの靴がなかった頃で、子どもは皆スリッポン型の運動靴というものを履いていました。よーのすけは今でもそうなのですが、甲が十分に包まれていないと脱げるんです。仕方がないので紐靴を履かされるわけですが、子どもですからみんなと同じ運動靴が履きたい。そもそも自分で紐が結べないのです、親は紐の代わりにゴムを通したりして工夫しておりました。

学童〜生徒期

 親の転勤で海外暮らしをしていた折、日本人の子どもっぽくキャラクター入り運動靴を履いていたところ、英国人と結婚していた婦人に注意されました。「子どもにはちゃんとした靴を履かせなければだめよ。」彼女に強く勧められたのが、KicKersというフランスの靴メーカー。今では革製スニーカーしか扱っていないようですが、当時はキャンバス地の靴も扱っていました。とてもすてきなコンビの配色の紐靴で、サイズを変えながら2、3回ほど買い換えて履きました。自分で紐が結べるようになった頃、学校に上がりました。少し時間がかかるけれど、紐が問題なく結べるようになったのはこのおかげです。

 学齢中途で帰国したわけですが、こちら、日本の学校っていうのは、学校指定の上履きに履き替えないといけないんですよね。足の都合なんか考えていない、滑りやすく形の悪いバレーシューズ。靴に対する認識が育たないわけです。履き替えなければいけないので、出がけに靴をきちんと履いて紐をきちんと締める、なんていう習慣はどっかに吹っ飛び、そのまま学校を卒業します。

大人の靴

 とはいえ、バレーシューズはサイズも豊富で靴底はぺったんこ。甲も深くてそこそこ締め付けるので脱げなかったんです。大人の靴を履くようになると同時に、よーのすけの靴探しの苦労が始まったのでした。

 せめて男だったらまだマシだったのかもしれません。よーのすけが履けるのは、靴底がフラットで甲が完全に包まれる靴。女性の靴というのは、一般にヒールを高く、甲を浅くして足を華奢に見せるようにデザインしてあります。そもそもデザイン的に逆行するのに加えて、標準より小さな22センチサイズ。幼少から歩行障害のある人は、サイズが並はずれて小さかったり、変形が起きていて靴探しに苦労する人が少なからずいます。よーのすけはサイズは小さいものの変形はありませんし、デザインにしろ、それほど無茶な要求はしていないのですが、流行の状況によっては全く靴が見つからなくなります。よーのすけの家系は女性陣の足が小さくて、スーパーなどの大量流通品が合わず、母などは若い頃、銀座ワシントン、だの、ダイアナだのの一流店でしかで靴を見繕えなかったようです。後はサイズ関係がない下駄。よーのすけの場合、クラシックタイプのパンプスという手を封じられてしまっているので、高級ブランドもアウトです。下駄なんて当然論外。

 大人に成り立ての頃は、スニーカーならサイズがありました。ところがもはや、スニーカーさえ履けるものがなくなってきました。サイズ展開が上にシフトしてしまったのと、靴の「ローリング機能」を売りにするスニーカーが流行ったおかげで、靴が不安定になり、危険になってきたんです。

ドイツの整形外科的靴作り −Medikale Fusspflege (医学的フットケア)−

 足をねんざしまして半年ほど動けなかった時期がありました。ほぼ治ってサポーターをはずしたものの、足首が不安で歩けなくなりまして。ちょうどハーフブーツが流行していたので、これなら、と思ったのですが、いかにせん、サイズは大きいし、ヒールは高いしで全く履けません。

 デパートをいくつも回りましたが、そもそもサイズでアウトの状態です。そんな中で、電話帳を繰っていて見つけた一軒の輸入靴屋があり、行ってみることにしました。それで、履ける靴がない、という事態はとりあえず回避されたんです。

ハーフブーツ

 このとき購入したのはこの靴です。黒のハーフブーツ。編み上げの紐靴。サイズはヨーロッパサイズの35。日本の靴で言えば22.5か23.0というサイズです。これくらい大きいと、紐でぎゅうぎゅうに締め上げても、靴の中で足が滑るか、つま先の余った分が邪魔で、つまずいたりするのですが、なぜかこの靴はそれがありません。

 靴屋の親父、最初はなんと「矯正靴」を作るつもりだったらしい。なんだか作る気満々で、曰く「これでキミも歩けるようになるよ。」 …無理だって。脳性マヒの子どものための舗装靴をたくさん手がけていて、それで歩けるようになった子どもがたくさんいるらしい。これって「切れば良くなりますよ。」と請け合う外科の医者ととってもよく似た「専門家的発想」ではあります。要は「やってみたい」わけね。

 よーのすけは、別に歩けるようになりたいわけではないので(実用歩行に今すぐ到達するんでなければ意味ないもんね)、きれいなベベ着て、それなりに様になって、なおかつ転けない靴。出来れば目下足首の具合が悪いのでハーフブーツ希望、と言ったところ、「足首の反り(内反)は、足首を押さえるんじゃなくてもっと下を支えるんで、別にハーフブーツじゃなくても大丈夫なんだけど…。何はともあれ足が小さいのがネックだなあ。あっちの人は足が大きいから。子供用? あなたの足の幅じゃ無理。」とぼやきつつ出してくれたのが、この靴とマジックテープの靴でした。マジックテープは、どうもよーのすけは苦手だったのと、革が固くて足の当たりが痛かったので、一回り大きかったけれどもこちらを選びました。

横から見たハーフブーツ。ヒールはほぼフラット とはいえ、この靴、実は4センチヒールだったんです。しかし、ドイツでは足に合わせて靴を切ったり削ったり貼ったりするのは当たり前なんだそうで、靴というのはそういう加工が出来るように作ってあるんだそうです。日本の靴みたいにかかとが中空などということはないんですって。それで、ヒールを削ってフラットにしてもらい、滑りにくい素材で靴底を貼り直しました。つまずかないよう、つま先を少し反り気味にしてあります。 靴の内部。内側に板が入れてあるさらに足首の内側に、内反防止の板が差し込んでくれました。半月型の濃い灰色に見えているのがその板です。痛いとか、きつく感じるようなら外すことが出来ます。これだけの加工賃で8千円です。そして靴本体が3万円の後半。結構なお値段ではありますが、診断書を取れば装具扱いに出来ます。これしか履けないんだもん、仕方がない。

サンダル

 靴下が大嫌いでして、ただいま、と帰るなり靴と一緒に靴下を脱いでます。玄関先で脱ぐのカッコ悪いからやめてくれ、と家人には言われるのですが、少し暖かくなるとあと10歩が我慢できないんです。

 で、暑くなってくると毎年「すだれのかかった甘味処で氷ミルク食べたいよ病」と同時に「サンダル欲しいよ病」という無い物ねだり病が発生します。今年、まとめてサイトでぼやいたところ、皆様方に熱心な情報提供を頂きまして、これはこのままタダの無い物ねだりに終わらせてはいかん、と思いまして、えっこらしょ、と行動に出ることにしました。

 頂いた情報の中で、気に入ったのがドイツ・ガンター社のサンダルです。ドイツと言えば、やっぱりあの店に行ってみるべ、と、横浜は元町の靴屋に、今回は一人で車を駆って、迷い迷いしながら尋ねていきました。

 この店、絶対に変わってます。先客がいたのですが、これまた車椅子ユーザーさん。簡易電動のユーザーさんで、やはりご自分で運転して来たとのこと。クラッチも背負っておられたので歩行もなさるのでしょう。スポーツサンダルの調整に来た様子でした。職人さんは、前にいた人とは変わっていました。

 最初に応対してくれたのは若い女性の店員さん。「手帳か保険使います?」と聞かれ、靴屋で開口一番「手帳」と来るとはね、とびっくり。どこでお知りになったんで?と尋ねられ、以前に作って頂いたことがあって、というと、カルテがあるはず、と探してくれましたが見つからず、まずはフットプリント(足跡)取りから始めることになりました。

 親方(マイスター)は先客の接客中でしたので、先ほどの女性と見習いらしい若い男性と二人がかりでフットプリントの作成です。立てることを確認した後、カーボンを入れたお盆の上に紙を敷き、それを踏みしめて、「動かないでいてくださいよ。」という、よーのすけにとって十指に入る難しい注文をされます。何度か失敗しましたが、やがて接客が済んだ親方が登場し、なんとか使えるフットプリントが取れた模様です。

 サンダルねえ…とこれまた困った顔をしながらまず持ってきてくれたのが、マジックテープでフルオープンになるスポーツサンダル。いや、こういうのじゃなくて、紐結び出来ますから…というか、紐の方がありがたいんですけど、と言ったら、出してくれたのがこのサンダルです。象牙色のサンダル。編み上げで足首まであり、かかととつま先が包まれている"

 黒とベージュ(アイボリーに近い)の2色展開で、ここにはサイズがないけれど、取り寄せればすぐに入るとのこと。よーのすけの思い描いていたイメージとは違うので、うーん、とためらいまして、「ガンターとかないんですか。カタログで見たんですが」と尋ねると、「最近はガンターもデザインが華奢になってきちゃいましてね。」とのこと。よく見れば、紐の編み目も美しいし、つま先が包まれているので安全で歩きやすそうです。思い切って、これを頼むことにしました。「前回お求めになったという靴も持ってきてくださいね。それも見ながら加工しますから。社長がどういう加工をしたのか、楽しみにしてますよ。」

 そして5日後、暑い日でしたがブーツを履いて、再び店を訪ねました。サイズ合わせと微調整です。「小さめがきれい」と言われるサンダルですが、履いてみると、やはり大きめです。とはいえつま先が包まれるタイプですし、これくらいはゆとりがあった方がいいのかもしれません。左足の指は編み目から覗くけれども、右はまるで引っ込んでいるということは、右足の方が小さいということか(普通、靴は右が大きく作ってあります。)。しかし、これでぴったり履け、靴の中で足が泳がないということで、「大丈夫ですね。加工しますよ。」ということになりました。 横から見た。ヒールは2センチ、靴底の厚さは1センチ ヒールはすでに「ぺったんこ」の部類でしたので問題はありません。ブーツの方では内側に付けた支持板を今回の職人さんは外側に付けました。内反防止の支持板が足首の外側に付いている甲の部分が当たって痛い、と言うと外側にクセ付けしてくれ、何度か履いたら馴染んで痛くなくなるはず、痛くなったら何かするからまた来るように、とのことでした。そのまま履いて店を出たのは言うまでもありません。

 この日以来、よーのすけは、このサンダルばかり履いて歩いています。ブーツでは暑い時期はアシックスのスニーカーを履いていたのですが、安定感が全く違うし、汗をかかないので非常に快適です。「(あまり)怖くない」というのが一番うれしいですね。

 このお店で扱っている靴は、一般のデパートでもほぼ同じ値段で扱っている靴です。しかし、そうした靴屋さんで靴を求め、サイズ違いを取り寄せようとすると、「返品は出来ませんので」と言われたりします。それって通販よりひとくないかい?とよーのすけなぞは思うのですが。「シューフィッターが靴選びのお手伝いをします」なんていうどでかい看板を出していても、合わせる靴がないんじゃ仕方ないですよね。

 最後にこのお店の紹介をしておきましょう。赤い靴 ドイツ足の健康館です。関東一円であれば、移動困難者のために出張診断もしてくれるようです。


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車椅子で彷徨えば扉
Yoonosuke Hazuki[Mail_ocean@mbc.nifty.com]