介助初心者のための車椅子取り扱いマニュアル1

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はじめに

 街中で、車椅子ユーザーが一人で歩いている。自信に満ちて猛スピードで飛ばしているかもしれませんし、よれよれ蛇行しているかもしれません。車椅子ユーザーでないあなたの目にとまることは、多分滅多にないでしょう。絶対数が少ないですし、2本の足ですっくと立ち、すたすた歩くあなたの視界から、1m程度の高さしかない物体は外れています。遮るものなどないはずの道の真ん中で、腰のあたりになにやら気配を感じて、視線を落とすと、突然人の頭が見えて、ぎょっとすることもあるかもしれません。恋人とのおしゃべりに熱中していて、向こうずねをぶちあて、痛い思いをすることもあるかもしれません。

 時には坂の中程で、行くも帰るもままならなくなっている車椅子ユーザーを見かけることもあるでしょう。階段の傍らで所在なげにしている車椅子ユーザーを見つけることもあるでしょう。あるいは、突然足許から、「すいませーん」と声をかけられて呼び止められることもあるでしょう。また、「こんにちはー」とやってきたお客さんが、イキナリ車椅子ユーザーだった、なんてこともあるでしょう。不意打ちを食らわせる車椅子ユーザーは、年々増えてきています。

 こういってはナンですが、ほとんどの人が車椅子なんて触ったこともないのではないでしょうか。触ったとしてもせいぜい病院の中リノリウムの平らな床をとろとろと押したことがある程度でしょう。大きな段差の前で、「上げて下さーい。」なんて呼びかけられても、はいよっ、と気楽に応じかねる、というのが実際の気持ちなんじゃないでしょうか。車椅子ユーザーの方も、ですから、一応気配を読みつつ、頼んでいるんですよ、ほんとのところは。

まず、声をかけて下さい

 あの車椅子ユーザー、ハマってるトコじゃないかな、と見たら、声をかけて下さい。イキナリ、ハンドルに手をかけて、押したりしてはいけません。行き先も聞かずに「お手伝いします」と押し始める人がたまにいますが、乗っている側からしたら、人さらいも同然です。こちらはリムを握っていますので、いきなりタイヤを思わぬ方向に動かされると、怪我をすることもあります。

 ただ例外的に、坂の途中で往生中の場合は、とりあえずハンドルを掴んで落ちないように押さえてあげて下さい。そして、登るか下るか、手伝うか、と尋ねて下さい。気を付けて欲しいのは、このようなとき、車椅子ユーザーは、健常者で言えば、うんていにぶら下がっているような状態です。息も切れています。通る声ですぐにお願いしますと言える状況ではないので、聞こえる位置にまで耳を下げてくれると嬉しいです。

 手を出す前に、必ず、どのような助けが必要か、尋ねて下さい。これは、車椅子ユーザーに限らず、視覚障害者、杖ユーザーでも同じです。いきなり腕を掴んだりしてはいけません。そして、声をかけたら「お願いします」「結構です」という返事をちゃんと確かめて下さい。声が通らない人や、言語障害ですぐには言葉が出ない人もいます。返事をしない人は絶対にいません。聞き返すのは決して失礼なことではありません。耳の位置を下げるなどして、「聞きますよ」という態度を見せていただけると、言語障害がある人などは特に声が出やすくなります。

[2]に続く
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車椅子で彷徨えば扉
Yoonosuke Hazuki[MailTo_ocean@mbc.nifty.com]