ガイドヘルパー養成研修原稿3

重度脳性マヒ者等全身性障害者を介助する上での基礎知識及び重度肢体不自由者の障害を理解する

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3. 全身性障害者の外出支援・介助とは

 そろそろまとめましょう。全身性障害者は、本当に多様な身体を持っています。その多様さは、一度や二度の経験でカバーできるものではありませんし、同じ人でも日によって違ったりします。みなさんの予想を超えることがたくさんある、ということは覚えておいてください。そしてなにより大事なことは、手際よくこなす、ということではなくて、当人のしたいようにやる、ということです。それは、ヘルパーの原則であると同時に、身体上の問題でもあります。その場は、ヘルパー自身のやり方で切り抜けたとしても、後で、身体の不調の原因になることもありますし、事故につながることもあるからです。

 あと最後に一つ付け加えておきます。それは、私たち障害者の生活体験の貧しさです。これは、身体状況を把握するというこの時間の趣旨からは外れていますが、全身性障害者の特徴として申し上げておきます。たとえば、普通なら誰でも、子どもの頃に、学校の行き帰りくらいは歩きますよね。子どもの時分から障害者だと、そういう経験が全くないので、たとえば方向感覚が全く育たない、等ということがあるんです。生活のあらゆる場面で、そういうことが起きてきます。大人になってから障害を持たれた方は、それほどでもないのですが、障害者として成長した方は、自分でいろいろなことをした経験が極端に少ないので、あなた方からすれば、ひどく常識外れの言動をすることもあります。かくいう私も、一人で電車に乗るようになったのが30歳前後になってからなんです。それ以前も、友達や兄弟と一緒に出掛けてはいるのですが、今になって、そのときのことを思い出すと、穴を掘って隠れたくなるような恥ずかしい言動を結構やってます。お任せで連れていってもらっているそのときには、指摘されても、何が変なのかわからないんです。

 実際に、みなさんが、ガイドヘルパーとして活動されるときに、思いのほかギャップを感じるのがこの点かもしれません。あなた方から見れば、どう考えても遠回り、とか、無駄、とか、危ないとかいうことを、指示されたときの話です。つまり、みなさんからしたら、回避したい、あるいは、回避させてあげるのが親切だと感じられる場合です。また、本来あってはならないことですが、ヘルパーさん自身の力不足から、無理だと思うことを要求されるかもしれません。これは、非常に悩ましい問題です。ヘルパーの原則からすれば、当事者が出来ないことを代わりにやる、ということですから、当人の指示に従うのが、当然です。けれども、やはり、それは勘弁して欲しい、ということもあるでしょう。あるいは、もっとシビアな場面に遭遇する可能性もあります。そういう場合に、どういう風に振る舞うかは、みなさんへの宿題にしておきましょう。障害者の経験の貧しさ、というのは、逆に言えば、失敗する機会を奪われてきた、ということでもあります。外出支援とは、そういった失敗も含めて、当人が「自分でやる」ということを支援するのだ、ということを忘れないでいて下さい。

 いろいろ偉そうなことを言いましたが、ヘルパーを利用する方々がみな、みなさんを上手に利用できるというわけではないのは言うまでもありません。都合のいいときだけ主導権をとって、都合が悪くなるとお任せ、という事態もないわけではないと思います。正直に言って、この私も、きちんとした介助を受けられるような指示をみなさんに出来るか、と言われたらあまり自信がないというところもあります。

 言うまでもなく、当事者とガイドヘルパーは、人と人との関係です。ガイドヘルプが成功するかどうかは、両者の力量にかかっています。当事者がはっきりとした意欲を持たなければ、ガイドヘルパーさんは能力を発揮できないことは確かですが、ガイドヘルパーさんの方に十分な力量がなければ、こちらも安心して依頼することができません。なにしろ、外出中の身体の一切をあなた方に預けるわけですから。その意味で信頼されるに足る知識と技術をみなさんには身につけていただきたいと思います。ヘルパーさんとの関係の中で、私たちはあなた方への説明能力を高めていきますし、みなさんも、私たちにかかわる中で、技術だけではない、介助のさまざまな能力を高めていけるのだと思います。がんばってください。


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車椅子で彷徨えば扉
Yoonosuke Hazuki[MailTo_ocean@mbc.nifty.com]