屋根裏の居候 4

昼寝した方がましなのか?

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本日休業の張り紙をして、ルゥはふて寝をしている。

 ウィ :おいおい、ルゥの奴、昼間っからなんで寝とるんや。

 チェ :いえね、こないだブレーカーを落とした分のエネルギー補充作業はやらせたんです。そんで、次の実験分のエネルギーは自分で補充作業して、溜めてからやれ、と言ったんス。そしたら、そんなにいっぱい働くくらいなら、昼寝した方がましだ、って。どうせアタシの仕事なんて切羽詰まったもんじゃないんでしょ、って言いまして。早い話がふて寝してます。

 ウィ :ほんまにもぉ、早速、節約効果を出しよってからに。こりゃ、ほとんど厚生労働省のもくろみ通りやで。

 チェ :またオレ厚生労働省役なんスか。

 ウィ :対価がいるんだったら、使うのをためらう。少なくとも、買う前に、ホンマに必要なもんかどうか吟味するわな。

 チェ :少なくとも家主はドケチですから、買い物には時間かかりますな。使えるもんかどうかさんざん試すすがめつした挙げ句、なくても困らないからやめとこ、って。

 ウィ :負担の公平性なぞと言ってはいるが、露骨に言ってしまえば「応益負担」にする狙いは多分そこにあるんや。ただでなければ、どっちでもいいサービスは使わない。何かで代用できれば代用するやろ。ユーザーが自分のお金節約して使わなかったら、公的負担も支払わなくてすむから、節約できる。ま、いい方に取れば、それで供給されるサービスも値段に見合ったものかどうか、シビアに吟味されて選ばれるから、質が向上する、ということもありうるが。

 チェ :いわゆる一つの市場原理が働くだろう、ってわけですか。お代を払うことで消費者意識が強くなりますからね。ろくなサービスしなかった業者はふるいにかけられるだろうし、家主なら値切り倒しますぜ。こないだデパートで値切っているの見ちゃいました。

 ウィ :まるで大阪のオバちゃんやな。第一次調査隊が、「大阪が地球の首都」なぞと報告したのも、あの迫力に当てられたに違いない。いや、そういう話やなくて。話はそううまいこと行きそうになくてな。サービスの内容は細かく決まっているうえに、細分化されとる。値切っちゃあかんのや。メニューの数が決まっていて、しかも業者はどのサービスとどのサービスを提供するか、選べるわけやから、ヘタをすると、面倒臭そうなサービスはどの業者も提供しない、なんてこともありうる。これは、介護保険の時も支援費の時も、サービス提供を民間事業者に全部任せるに当たって問題になったことやけどな。

 チェ :市場原理が働かない、ということですね。

 ウィ :そぉや。考えても見ィ。障害者ゆうのは、重度化するほど数が減るんやぞ。

 チェ :逆だったら怖いっす。

 ウィ :ある意味「逆」になってんのが、「超高齢化社会」や。支えられる数が支える数よりも多くなってしまいよって、それで大騒ぎになっとる。とと、また話がずっこけた。
つまりやな、重度化するほど需要は減る、しかもヘルパー作業としては高度化して面倒になるとしたら、取り扱い業者の数は増えないやろ。需要と供給のバランスとしては釣り合うかもしれないが、質を上げるほどにはならないんとちゃうか。まあ、これはやってみんとわからないが。

 チェ :業者が増えず、選択できる商品が増えないんじゃ、吟味もヘチマもないってことですね。

 ウィ :それ以上に問題なのは、1割負担を負担しきれず、別の代用手段に行かざるをえなくなる可能性があることや。ルゥの場合は、実験をやめて、ふて寝する、という行動に出たわけやが。

 チェ :障害者の場合、負担できなかったら…。負担できなかったら生活できなくなるでしょう。

 ウィ :必ずしもそうとは言えん。おっと、早とちりするんやないぞ。それは、「節約できる金があったから」というわけやない。当たり前やけど、誰も死にとうないからな。身に危険を感じたら、やばそうにないところから少しずつ削っていく。それで予算の範囲に収める

 チェ :それを普通は倹約って言うんでしょうが。

 ウィ :ま、そうなんやけどね。せやけど、削るってどこを削ると思う。一番懸念されているのは、「地域での生活」が立ちゆかなくなるんやないか、ってことや。「地域での生活」なんて、普通の地球人は使わない言葉やけどね。ワシもここのウチに移住して初めて聞いたよ。

 チェ :地域生活が立ちゆかなくなる、ということは、つまり…。

 ウィ :施設に逆戻り、というのもさることながら、そうやね、いわば強制的ふて寝やね。なんせ、障害者ってのは、下駄履きで散歩に出る、ちゅうわけにいかないやろ。ちょっとそこまで、ゆう場合にも、人手がいる。削るとすればそおいうトコから削る。家族がいれば家族に足りない部分を頼る。家族がいなけりゃ、地域から撤退して、施設か。とはいうものの、今じゃ施設も縮小傾向やし。ま、死人が出るとやばいから、死なないようにはするやろうけど。

 チェ :ふて寝してれば、金は使わない。死ぬほど悲惨なことにならなければ、ちゃんと生活できてんじゃん、やっぱり倹約できんじゃん、と。えげつない話ですなあ。

 ウィ :まあ、そこまで露骨なことは考えてへんとは思う… 思いたいけどね。もう一つえげつない話をしようか。以前から問題になっていたんだけど、今回の改革で、費用の負担についての扶養義務者の負担義務がなくなった。

 チェ :家族が金持ちでもサービスが受けられるわけですね。

 ウィ :うん。今までは、扶養義務者の財産全部勘定して、支払い能力の額に応じて負担額が決まっていた。これはなくなって、扶養義務者が金持ちだろうが貧乏だろうが一律に1割負担、上限4万2千円になったんや。

 チェ :本人個人で見るわけですね。家主、以前に車イス新調したとき、世帯は別だけど同じ屋根の下に住んでるばあさんの所得証明までさせられてたもんな。それがなくなる、と。

 ウィ :ところがどっこい。「同一世帯の負担能力に応じて負担額を減免する」という一文がちゃあんと入っているんや。

 チェ :と、いうことは。支援に対する支払いが増えるから、事実上生活費が減る。じゃ、家族と住もうか、とか、誰かと同居しようか、ということになれば、その家計から金が取られる。そうなると、同居家族が経済的負担に耐えかねて、持ち出し分のサービスを受けない。となると、節約できる…。わ、えげつない。

 ウィ :ま、それはものすごく悪意に取った場合やけどね。けど、実際、似たようなことが介護保険で起きとる。介護保険以前には、ヘルパー派遣や入浴のサービスは、行政措置だったから、ワーカーが、生活全体を見て、必要だったらサービスを付けられたんやけど。、

 チェ :でも、それってワーカーがロクデナシやとダメだったんでしょう。それに、自治体のヤル気がないとダメだったし。そもそも、サービス量自体が少なかったじゃないですか。

 ウィ :確かにな。介護保険が始まって、一定の基準に達すれば、誰でもサービスが受けられるようになった。サービス量もサービスを受ける人の数もものすごく大きくなったよ。

 チェ :町中で、ケアなんとかの車が走ってますよ。儲かるんでしょうね。

 ウィ :儲かるのよ。儲かる部分をやればね。比較的軽度の人ね、たとえば、週に何度か家事の手伝いをしたり、時々外出したり、デイサービス利用したり。その程度なら、比較的コストを低く抑えられるし、必ず定額で供給するんやから、それなりに安定した商売ができる。ところがや。
それまでは、「状況が厳しい」ということで、行政の裁量でサービスが供給されてた人な。とにかく膨大なサービス使う人や。この人たちの場合、支払額がものすごぉ高くなるんや。

 チェ :今までタダだったのが、4万2千円。

 ウィ :しかも、サービスに点数が付けられて、上限が決められている。なにしろ、高齢者だからね。圧倒的多数の「普通の地球人モデル」でサービス基準決められてるから、それより状態が悪くなってしまっていると、当然規格外になってしまって、生活するのに全然足りなくなる。子どもの世代は、現在の所得めいっぱい使ってローンなんか組んじゃったりするから。

 チェ :とてもじゃないけど負担できない。そういや、親の年金込みで建て替えローンとか組んじゃってる人もいるらしいですもんね。

 ウィ :で、すこしでも「倹約」言うことになる。親子同居のために建て替えたのが、サービス料を払えずに施設に入っちまったりしてな。

 チェ :ふええ。

 ウィ :業者のほうも、家事ヘルパーなんかだと、ほいほい言って派遣するけれども、夜間、とか、24時間、とかいうことになるとな。採算が合わないらしくて、よう手ェ出さない。

 チェ :需要があっても、供給のうまみが出るほどはない、ってことですね。買う前に、よぉく考えよう、どころの話じゃないっスな。供給がされなければ、商品がないから買えない。わぉ、究極の節約方法。

 ウィ :そこまで言ったら言い過ぎや。けど、自立支援法案を見ると、半分以上が、この「応益負担」にページを割いてるよ。しかも、生活困窮世帯、入所者、グループホームなどと、地域での年金生活者の家計比較を一生懸命しとる。
せやけどな。すごいで。年収200万未満の世帯、一人当たりの家計が5万円になっていて、それで、障害基礎年金2級6万6千円より1万6千円も多いやんか、ずるいやろ、これが支出の実態や言うとんねん。今、学生の下宿だって家賃5万じゃ厳しいんやで。パラサイト生活ならともかく、一人5万で生活せえ、というのは直感的に無理やん。

 チェ :ようするに、パラサイト生活しろ、ということですな。で、年金は、サービス利用料に充てろ、と。

 ウィ :そうかもね。ところで、そろそろキミ、定時報告の時間やで。

 チェ :それが、出力が足りないんスよ。

 ウィ :やっぱりね。この間から、エネルギー補充装置の調子がおかしかったんよ。それで、ルゥに調整させてたんやが。

 チェ :げ、じゃ、あの停電は。

 ウィ :半分はロケット実験、半分はエネルギー補充装置の点検作業してたみたいね。あいつはあれで腕のいいエンジニアなんやけど、二つ同時にやる、っちゅうのが、ルゥの横着なところなんよね。ま、一日くらい寝かせとき。

 チェ :すぐに寝てるのに飽きるでしょうよ。寝てろ、って言ったって何とかして出てくる奴なんですから。エネルギー足りなくても、どっかからくすねてきて実験してる人ですもん。


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車椅子で彷徨えば扉
Yoonosuke Hazuki[Mail_ocean@mbc.nifty.com]