屋根裏の居候 3

使った分だけ燃料補充

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 ウィ :やれやれ、やっと明かりが復旧した。家主のブレーカーが落ちるとはな。ワシらが落としたことがバレたら、家賃に加えて電気代別料金じゃ、言いよるで。

 ルゥ :それより、アタシたち捕まえて売り飛ばすと思う。

 ウィ :いや、あの人は、そういう一攫千金型の儲けより、ほそーく・ながーく・しつこーく儲けること考えるタイプやから、それはないよ。ただ、ここにワシらがいるのがバレると、ワシら金ヅルにされて、ここの家を脱出できなくなる可能性はある。さて、まだ出力が足りないな。エネルギー補充作業続けないと。

 チェ :それ、ルゥにやらせましょうよ。どうせ、今、エネルギータンクが空で実験できないんだから。次の実験で使う分が溜まるまで働かせよう。

 ルゥ :何よ、明かりがついて明るくなったのに、あんたはまだそんなネクラなことを言ってんの。エネルギー変換係数を間違えてよそ様の家のブレーカー落としたくせに。アタシだって、手が空いたら補充作業やってんのよ。それでいいじゃないの。

 チェ :よくない。使う分だけ溜めてから使え。

 ルゥ :アタシのやってるのはロケットなのよ。通信機を積み込むもん作ってるのよ。自分の分をまかなうなんて無理よ。

 ウィ :ほれほれほれ。二人とも落ち着きィな。

 チェ :オレだって、もう少しエネルギーに余裕があれば、そんなこと言いませんよ。足りないのにルゥが湯水のごとく使うから。もう少し節約するか、補充量を増やすかどっちかしかないじゃないですか。

 ウィ :。チェの文句は完全に厚生労働省の言い分と一緒やで。どっちかとゆうと悪役の役回りやな。

 チェ :悪役で結構。よけいなお世話です。

 ウィ :そういじけなさんな。オレがこんなに苦労しているのに、あいつは労せず分け前にあずかるのはずるい、っちゅうチェの言い分は、感情的にはよくわかる。地球の物質でエネルギー補充作業するのはえらくしんどい仕事やからな。使う分だけ支払え、というチェの主張は、まあごく常識的ではあるんだが、今、家主が頭抱えてる「障害者グランドデザイン」な。あの筋書きにのっけようとすると、どぉも具合が悪くなるとゆうか、収まりが悪うなるのや。

 チェ :収まりが悪いと言いますと。

 ウィ :うん。ロケット開発には時間もエネルギーもよけいにかかる、というルゥの言い分に似ていなくもないんだが…。

 ルゥ :そういえば、家主の見てた資料は、受けられるサービスの量を所得ごとに並べたものだったわね。同じだけしか所得がないのに、仕事もせんと、障害者の方がタダでいっぱいサービス受けられるなんてずるーい、って言ってるわけね。

 ウィ :そそ。経済的には同じくらい困っていても、「障害者」なら公共サービスを受けられる量が多いから、生活楽やん、ずるいやん、と言う理屈。いい生活をしたいんなら、その分、おカネ払いや、となるわけや。

 ルゥ :ルゥはたくさんエネルギー消費する作業をやってるのに、エネルギー補充作業をしないのはずるいや、使うんなら、使っただけ補充しろ、っていうチェの言い分だわね。

 ウィ :そゆこと。これまでは、自己負担ゆうて、支払える能力に応じて支払えばよかったんやけど。

 ルゥ :アタシが、手が空いた時間だけ、エネルギー補充作業すればいい、っていうのと同じね。

 ウィ :そんなトコやな。支払い能力に応じて負担すればいい、っていうことで、応能負担っていうコトバが使われるんやけど、それが、今度の改革で、使った分だけ負担させよう、という話が出て来てるのや。サービスで受ける利益の分だけ負担せえ、ゆうことやな。利益に応じてゆうことで応益負担ゆうのやが。

 チェ :でもサービスを使っているには違いない、サービスを受けて生活が楽になるには違いない。だからその分、他のサービスを受けている人、たとえば高齢者並みに支払えと。

 ウィ :そそ。せやけど、24時間、誰かの手伝いが必要な人が、その分の人件費と経費、稼ぎ出せると思うか。誰の助けも借りずにガンガン何でもやれる人間だって、人の給料を支払えるだけの収入を、普通は持てないんやから。サービスいっぱい使うような人ほど、自前で支払える稼ぎを持てないに決まってるやろ。というより、サービス代支払えるような人は、そんなサービスなんか必要ないやん。

 チェ :せいぜいロケットを落っことしてるルゥなんかと違って、サービスで受ける利益と言ったって、好きなときにトイレに行く、とか、あんまりくたびれないでご飯を食べる、とか、そういう話ですもんね。そんなことを利益じゃ、といわれてもなあ。

 ルゥ :人を1人、24時間拘束するわけよね。1日8時間労働だから、3人。ひとりあたま、月給25万として単純計算すると75万、んで、さらに派遣業者の取り分加算して…。

 ウィ :ほれ、そこ、えげつない計算するでない。今の支援費でめいっぱい使うと月100万円くらいらしい。それを高齢者の介護保険と同じ負担割合で1割負担にするんやと。

 チェ :それにしても10万。月々10万の支出ってどんななんです。

 ウィ :日本人の平均的な住宅ローンの返済が10万ちょっとなんやて。さっき言った月収25万、っていうのが、年収300万で、所得税がかからない額やからね。そんな収入の人じゃ持ち家あんまり買わないだろうし。しかも、住宅ローンなら家賃はいらんのやけど、介助費で10万支払う場合は家賃が別にいるわけやし。

 チェ :生活上の消費抜きで10万かあ。いくら月収がありゃいいんだろ。

 ウィ :さすがに月々10万てゆう数はあまりに突飛やんけ、となって出て来たのが「上限4万2千円」。これまた高齢者の介護保険料と同額。

 ルゥ :とにかく介護保険とそろえたいわけね。安直。で、サービス料支払うことになるからと言って、今後支払いに使えるお金が増えるわけでもないんでしょ。

 ウィ :まあね。状況によって減免は出るかもしらんけど。
身体的・知的な能力が平均的な地球人より著しく落ちてる、という点では、障害者も高齢者も同じで、同じ弱さをカバーするために同じだけのサービスが同じように使える、というのは理想的なのかもしれないけど。ただ、そこまで等しい、と言い切るためには、埋めなきゃいけない穴ボコがしこたまあるんや。ほとんどの高齢者は、年取るまでに何十年もかかるわけやし、その間は平均的な地球人なんやから、収入もあり、老後に備えて蓄えもしているはず。

 ルゥ :最近は怪しくなってきてるけど、結婚して家族も作っているしね。生まれたときから高齢者、って人はあまりいないもんね。

 ウィ :普通の何倍もの早さで歳を取る、っていう人がいないわけではないけど、そおゆう人は「障害者」に分類するのが地球では自然やろ。

 チェ :それは言えてます。歳を取る、なんてのは、地球人の場合、60年だの70年だの生きていれば誰でも起きることで、それなりに予測が付くわけですしね。

 ウィ :うん。予測が付かないほどでっかいイレギュラーが「障害」になるんよ。んで、ここの家主なら、「社会的リソース」なんちゅうしちめんどくさいコトバを使うやろうけど、稼ぐ、みたいに直接メシのタネを取ってくる、というだけじゃなくて、電車を使う、とか、お釜で飯を炊く、とか、そういう「利益」からも閉め出されているわけや。「障害者支援」ちゅうのは、本来、障害者が障害者であるがゆえに閉め出された利益を個別に補うはずのもんなんやが。

 ルゥ :月々100万円、という額だけ聞くとぎょっとするけど、鉄道にしろ、道路にしろ、国がかなり税金使ってるんだもんね。おまけにいろいろ規制をかけて既存業者の利益守ったりしてるし、線路引いたり道引いたりするのに土地収用なっつって、公権力まで使ってるし。今でこそJRだけど、国鉄だったんだもんね。それで電車に乗れないことになってんなら、それに使ってる金、一人分だけでも返せ、って言っても良さそうよね。

 ウィ :建築基準法とかだって、平均的な地球人の安全は保障するけど、障害者とか、ワシら宇宙人の安全も使用も保障してへんからな。そんなんで、電車に乗るってどっかへ行くのに必要な、たとえばガイドヘルパーの利用を、「利益や」と言われても、何か違う気がすると思えへんか。電車は、最近、交通バリアフリー法なんぞで一応利用が保障されたけど、行った先の建物の利用は保障されてないし。いっかな交通バリアフリー法でも、そこから漏れる重度障害者もおるで。誰でも運賃さえ払えば享受できる利益にあずかるのに、莫大な利用料がかかるとすれば。

 チェ :そりゃ不公平ですわ。

 ウィ :やろ。「ずるい」「ずるくない」というけれど、人に対して「ずるい」「ずるくない」と言うためには、それなりに納得できる理由を付けにゃならんのや。

 ルゥ :そうよ。開発に時間もエネルギーもかかるアタシが、補充作業するヒマなんかなくたって、チェなんかよりたくさんエネルギー供給受けるのは当然なんだわ。

 チェ :ルゥとは話が別。誰もそれで大して困りゃしないから、実験のペースを落とせよ。今までなくてもやってこられたんだから、いまさらペース落ちたってどうってことないよ。本部も文句は言ってこないと思うぜ。もぉ、せめて今回は使った分補充してもらうぞ。使った分だけ、補充作業のノルマを増やしてやる。

 ルゥ :え〜ん。あうあう〜。

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車椅子で彷徨えば扉
Yoonosuke Hazuki[Mail_ocean@mbc.nifty.com]