屋根裏の居候 2

使いすぎだぜ、燃料切れ。

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ブチッ、という音がして電気が切れた"

 ウィ :ぶちっ?

 チェ :あ、ルゥの奴、またエネルギータンク空にしたな。こりゃ、タンクの底が焦げ付いたかも。あいつ、エネルギー潤沢に使いすぎ。

 ウィ :またルゥはロケットの高出力化の実験やっているのかい。

 チェ :そうなんスよ。調査範囲拡大のためロケット高出力化するのが必要だってのはわかるんですけど。だけど、本部へ連絡を送るための亜空間通信機だって、結構エネルギー食うんですよ。このごろ出力が上がらなくなっちゃって、定時報告を前の半分に減らしてるんですから。

 ウィ :ま、報告のネタも半分以下に減っちゃってるから、かまわんと言えばかまわんのやが。

 チェ :使うだけ使って使いっぱなしで、補充もしてくれないし。こらあ、ルゥ、おまえはまた。

 ルゥ :やっぱりエネルギー足りなかったみたい。実験に使うエネルギー、アタシの分の割り当て増やしてくれない?

 チェ :冗談じゃないよ。使いたいだけ使いやがって。オレだって、割り当てエネルギーの中で、報告データ飛ばすの大変なんだぞ。状態がいいときを選んで、エネルギータンクをいっぱいにしてから通信機を始動させているんだ。

 ウィ :まあまあ。亜空間通信機に比べたら、ロケットの方がエネルギー使うことは確かやから。

 ルゥ :そうよ。定時報告なんて、通信機の前でちょちょっと報告文を打つだけじゃないの。ロケットの開発なんて、ずーっと作業してなきゃいけないのよ。おまけに、作業の結果、成功するとは限らないんだから。徹夜の調整がパアになることも多いんだし。たくさん使うのは当然よ。

 ウィ :まあまあまあ。どっちも大変なのはわかっているし、ここのところエネルギーの確保が不足気味なのも確かやしな。ルゥがエネルギー使いすぎだ、というチェの言い分はわかる。

 チェ :でしょ。本部が最近怠慢で物資の補給が滞ってまして、エネルギー供給量全体が不足してます。地球の物質使ってエネルギー補充作業するのって大変なんスよ。なんとか節約せにゃ。

 ウィ :ワシも本部をつついているのやが、どぉもはかばかしくなくて。物資は送ってこないで、省エネのポスターなんぞを送ってきよった。ポスターはたためば格安の定形便で送れるからな。3人しかいないところでポスター貼ってどうしようっちゅうねん。そうや、さっきから家主が頭抱えている「改革案」が出て来たのも、同じような理由やね。

 ルゥ :いち、に、さん、たくさん…、っていう数の勘定しかしない家主が、そういえば5ケタもある数字の詰まった表を見て、難しい顔してたわね。ついでにハナ提灯も膨らませてたみたいに見えたけど。改革案って、チェみたいなセコいこと言ってるわけ?

 ウィ :なんちゅう言い方するんや、キミは。そうやね、セコいと言えばセコいかな。ニッポンは不景気で、財政厳しくなっているので、どっかを削らないといけなくなってるわけやけど。とにかく少しずつどっか削ろう、って話をしてて、「障害者政策」もどっか、って話になってんのね。ようやく水準が「先進国並み」に上がってきつつある「障害者政策」を削るリクツを付けるのって、結構難しいんやけど。

 チェ :簡単です。ない袖は振れぬ。

 ウィ :今日はばかに突っかかるな、キミ。まあ、チェみたいに、ミもフタもなく裸の物言いをするんなら、それなりにやりようもあるかもしれないが、そういう露骨な理由付けはできないからね。「障害者の自立の展望に立って」とか、「地域や障害、生活困難の種別の不公平解消のために」とか、それらしい理由をつけていて、それがいかにもとってつけたようなものなんよ。その上、ソデがないと言いつつ、実際には、フトコロに別の袖を隠してあったりするんで、話はよけいややこしくなったりするんだが、

 ルゥ :2年前だっけ(2002年)、「支援費」制度ができたときには、「自立」の方が強調されてたわね。将来的には「節約」の方に舵を切りたい隠れた意図がミエミエだって言われてたけれども。

 ウィ :今回は、「節約」の方がかなり前面に出て来た。「不公平の是正」という仮面を被ってるけどね。財源の確保も十分でないまま、自立生活のための給付をします、と言っといて…。

 ルゥ :「やってみたら大赤字になったので、見直しますぅ。」はじめから破綻させるつもりで事業を展開したわけね。破綻したら見直さざるをえないから。しかも強行したんじゃなかったっけ。

 チェ :ルゥ、お前もタンク焦げ付くことを見越して実験を強行したんとちゃうか。

 ルゥ :ちょっと足りなくなるかなあ、とは思ったけど。

 チェ :やっぱり。

 ウィ :まあまあ。この場合、異郷に調査隊を派遣しといて、物資を寄越さない本部の姿勢ってのが、そもそも問題やろ。

 チェ :はかばかしい調査結果を出せないオレらの問題もあるかとは思いますが。

 ウィ :そんなことははじめからわかってるはずだったんやで。少なくともある程度は。
こちとら、供給される物資がもともと不足気味だったんやし。それを本部の都合でさらに減らされて、あとはそっちでなんとかせえ言うんやから。ラトシュツールに戻って文句言おうにも、地球を脱出できるだけのエネルギー供給できないから、こっちの3人で分けっこするしかない。
おっと、いかんいかん、こんな暗闇の中で言い合いすると、すさんでくるから、復旧作業にかかろうや。あまり長くエネルギー切らしてると、メイン動力炉まで落ちてえらいことになるから。家主んちの電源からちと電気を拝借しよう。

 ルゥ :了解。

 チェ :お前じゃ、なにやらかすかわからないから、オレが行く。家主に見つかるとそれこそ大変だから。全くもう、地球人、何でこうエネルギー効率の悪い電気なんぞを使っているんだか…。

ばちっ、というヒューズが飛んだ音

 ウィ :ばちっ?

 ルゥ :あら、家主さんちのブレーカーを落としちゃったみたいよ。

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車椅子で彷徨えば扉
Yoonosuke Hazuki[Mail_ocean@mbc.nifty.com]