屋根裏の居候 1

家主頭抱える

玄関[I]どこまで彷徨[R]> [1] [2]
屋根裏の居候3匹

 いつの頃からか、家主の部屋の屋根裏に居候が3匹、家賃も払わずに住み着いています。自称、「ラトシュツール星から来た宇宙人」だそうです。自分たちはこっそりと隠れ住んで、母星に情報を送っているつもりらしいのですが、連中、になりは小さいくせに声は大きい。人んチの頭の上で日々好き勝手なことをしゃべり散らしていますので、とっくに無断賃貸はばれています。

 ウィ :家主、何頭抱えとんのや。頭抱えてんのは珍しくないが、グラフだらけの紙束なんぞ見てんのは珍しい。

 チェ :あ、あれっスか。なんでも新年度から、家主の属してる団体で新しい企画をするんだそうで。新しい「障害者グランドデザイン」と「障害者自立支援法」の解説と意見をやるとかで。

 ウィ :そぉか。そら、ここの家主、わからん言うて頭抱えるわな。なんせ、手前で生活しとらんから、なんぼ偉そうなこと言うたかて、実感ないはずだもん。まったくもぉ、いい人ぶって仕事しとらんと、はよ世界征服の研究してくれっちゅうの。でないとワシら、本部にはかばかしい報告できなくて、いつまでたってもおうちに帰れない。

 チェ :どうせ、大阪万博の時に第一次調査団を送り込んで、「地球の首都は大阪だ」なんていう報告書を鵜呑みにした本部ですからね。オレらだってテキトーな報告作ったってバレやしないとは思いますが。

 ウィ :そぉや。だからワシの世代の調査員は、必死に関西弁習うて…。ワシの報告のおかけやで、キミらが標準語に切り替わったのは。

 チェ :はいはい。でも、ホントなんですか。ここの家主が世界征服の研究してて、それが完成したら、それをかっさらって我々の地球侵略のネタにできるというのは。

 ウィ :多分。

 チェ :頼りないなあ。で、家主、何で頭抱えてんです?

 ウィ :それはキミが教えてくれたやろ。新しい「障害者グランドデザイン」と「障害者自立支援法」が理解できないからや。

 チェ :ですから、どうしてそんなんで家主頭抱えるんスか。ここの家主、頭の回転はトロいけど、しちめんどくさい文章読み解くの、そんなに苦手じゃないでしょう。

 ウィ :せやから、言うたやろ。ここの家主、自分で生活しとらんから。実生活に会わせてうまく説明できないんやな。というより、今の家主の生活のやり方じゃ、希望する生活のなかでうまくそぉいうの使えないのよ。「支援費制度」が始まったときだって、家主、パンフレット見て、「使えねーや」と言って、うっちゃってたやろ。というより、それ以上に家主が悩んでんのは、今回の制度案が、どうやっても、理論的整合性を会わせられないところなんだな。生活実感より観念的なところで悩んでんのが家主らしいというか、何というか。

 チェ :観念的といいますと。

 ウィ :うん。今流行している思想的な潮流というのがいくつかあるんだけど、そのうちのどこにも当てはまらなくて、「この改革は正しい」と言う連中の理論的根拠が見つからないみたいやね。とりあえず「真っ当に見える理論的根拠」の道筋が見えないと、批判のしようがない、って家主は感じる人だから。

 チィ :でも、ウチらの本部ほどではないにせよ、いくら成り行き任せの地球人といったって、「この改革が正しい」ってことを言わずに改革したりはしないでしょうが。そんなにわけのわからんもんなんですか、その「グランドデザイン」「障害者自立支援法」とやらは。

 ウィ :おっとっと。両方ともまだ「案」の段階やけどな。「障害者自立支援法案」が、今季の国会に提出されとるのよ。これが、今までの路線からいきなりのヘアピンカーブ、とゆうか、ほとんど30年前に戻ったんちゃうか、ってな話らしいんやな。

 チェ :ウチらの第一次調査隊が入ったころですな。

次のページへ[O]

玄関[I]どこまで彷徨[R]> [1] [2]
車椅子で彷徨えば扉
Yoonosuke Hazuki[Mail_ocean@mbc.nifty.com]