ホームヘルパー2級養成講座2

玄関[I]どこまで[R]>ホームヘルパー2級養成研修2[1] [2]

「障害」を理解して介助する

いろいろな障害

 次に、実際に「介助」をするときにどんなことを考えておいたらいいか、ということについて少し話してみたいと思います。皆さん、ヘルパーとして、実際に障害のある方を直接支えるわけですからね。

 障害者と一口に言いましても、ご存じのようにいろいろな方がいます。大きく分けても、身体障害者、知的障害者。そして近年になってやっと、精神障害者も「障害者」の枠に含められるようになりました。この3つの障害を重複して抱えていらっしゃる方も少なくありません。

 私は言うまでもなく「身体障害者」でして、見たまんま障害者です。非常にわかりやすい。大変に見えるかもしれませんが、実は結構生きやすいんですね。出来ないものは出来ないよ、と言えば納得せざるをえませんから。まあ、たまに「アンタが歩けないのは、リハビリする根性がないからだ」なんて言われることもありますが、まあそうあるわけではない。生きていくのが本当に大変なのは、実は、ぱっと目には「障害者」に見えない障害者の方たちなんです。そのことは覚えておいて欲しいと思います。

 本当でしたら、この3障害全部をカバーしなければいけないのですが、時間もないですし、私の手には余ります。ということで、今日は私をサンプルにして、お話しすることにしましょう。

 私の障害は脳性マヒといいます。テキストにも載ってたと思います。脳の一部に傷が付いてまして、身体の方が誤作動します。知的な障害を伴ったり、非常に重度な障害を持ってしまう方もいます。

 私を見て頂ければわかりますけれども、まず、不随意運動というのがあります。自分の意志には関係なく身体が動くんです。さっきから、首とか手とか変な動きしてますでしょ。結構疲れるんですよ、これは。だから歩けないし、話すのもうまくない。口の回りが悪い所から想像が付くと思いますが、食べるのもあまりうまくありません。勝手に手足が動くんですよ。どうでしょう。ちょっと想像してみてください。イメージ湧きますか?

「障害」の特殊性

 実際に介助にあたるとき、注意して頂きたいのは、障害者の身体のイメージが掴みにくい、ということです。しかも、本当に様々です。まあ、それは高齢者でも本来同じなんですが、お年寄りの場合はみなさんにとってはまだ予想がつきやすいでしょう。お年寄りは、こんにちは、と肩を叩いても、急に飛び上がって転んだりしませんでしょ。

 私の場合、肩なら大丈夫ですが、ちょっとずれて背中触ったりしようもんなら大変です。本当に飛び上がります。そして、体中つっぱってしまいます。同じ名前の障害を持っていても、実際の形は全く違います。

 ですから、きちんと本人に確認して欲しいですし、先ほどから言っているように、コミュニケーションがとても大事になるんです。そして、そういう確認をきちんと出来るようになるために、障害についての知識が必要になります。適切な質問が出来ること、それが「介助のプロ」なんだと思います。

実習

 ここまで、話聞かされるばかりで、しかも、言語障害付きの話を聞かされてくたびれたと思うので、ちょっと動いてみましょう。

 先ほど私は、障害者の身体は本当に違うものだ、と言いました。どれほど違うか、というのを、車イスに乗る、ということだけでこんなに違うんだ、というのを実感してもらおうと思います。

いかがでしょう。ちょっとイメージ湧きそうですか。私たちも、同じ「脳性マヒ」の人に対してさえ、的確な対応を取れるわけではないんです。ただ、皆さんに比べたらイメージがしやすいということは言えます。

「ヘルパー」を使って暮らすということ

「普通の生活をする」難しさ

 非常に当たり前のことですが、私たちはごく普通の生活をしておりますし、したいと思ってます。しかし、「障害者」である、ということは、そういうごく当たり前の生活を送ることが難しくなる、ということも事実です。ごく普通の生活をするために、設備を変えたり、人の手を借りなければいけない。実際、私、ここの階のお手洗いが使えないんですよ。

 皆さんはこれからおうちへ帰って夕ご飯を食べてお風呂へ入ったりしますよね。それが、お風呂のヘルパーさんが、朝しか手当てつかないから、お風呂は朝入ってください、とか言われたりするんです。

 障害者になりますと、突然、「普通の生活」が普通じゃなくなってしまうんです。人の都合で動かされる部分が非常に大きくなってきますし、サービスメニューに従って規格化されてきます。私たちにとって、皆さんの「普通の生活」というのは、実に「その人らしく個性的な生活」なんですよ。ですから、私たちの生活、その人らしい個性的な生活を支える皆さんには、障害を持つご本人ときちんと関係を作って頂きたいんです。

どちらを向いて支援するのか

 とはいいましても、実際に支援に入って行かれますと、なかなかご本人とうまくやりとりが出来ない、という場面も多いとは思います。上手に考えていることを表せない人もいるでしょうし、初めから「お任せ」になってしまっている人もいるでしょう。自分のして欲しいことを伝えるには、非常に労力がいります。それに加えて言語障害なんかがあった日には、言葉を聞いてもらうだけで一苦労です。伝えることそのものに疲れてしまっていても当然と言えば当然です。

 それでも、やはりヘルパーさんには、常に当事者の方の方を向いて頂きたいと思います。

 「家族も当事者だ」とは言われますし、それは確かに間違ってません。けれどもやっぱり当事者は当事者なんです。

 皆さんは時間で動きますから、どうしても家族に聞いた方が効率がいい、ということはあるでしょう。でもね、本人が言いたいことがあるのに、伝わらない。途中で家族がひったくってしまい、本人そっちのけで話が進むケース、ってとても危険なんです。それは本人の普通の生活ではなくて、家族の普通の生活を支援するものになってしまうんですね。で、実際そうなりがちです。私も、ですから、「ここ一番大事な話」には、絶対に家族を連れて行きません。やはり相手も家族の顔色をまず伺いますし、やはり習い性になる、というのか、私もつい家族に頼る気持ちになるんですよ。「私がしてもらうこと」が、いつの間にか「家族が」になってしまう。

 あなた方の仕事の責任を誰に対して負うのか、ということは、時々考えてみてください。

他人が生活の中に入ってくるということ

 もうみなさんには想像が付くとは思いますが、家庭生活の中に他人が入ってくる、ということは、やはり厳しいものがあります。その意味で、ヘルパーを入れる、というのは、かなりギリギリの線で入れています。とても勇気がいることなんです。着替えをする、料理をする、お風呂に入る、これらのことはみな、個人的なことであると同時に、家族も巻き込みます。

 お台所を預かっている方、とくに女の人の方がこれはよくわかるかもしれませんね。お姑さんがお台所に入って手伝ってくださるのって、実はかなり嫌でしょう? 私たちもやっぱり他人におうちの中をいじられるって嫌なんですよ。それにもかかわらず、入れなければ生活できない。障害者は、24時間ずっと障害者なんです。他人の手なくしては生きることが出来ない。「嫌ならいいよ」と言うことが難しいんです。そのあたりのジレンマを、実際に働くあなた方にも、感じ取って頂きたいと思っています。

まとめ−イマジネーションを広げて

 いろいろお話ししてきましたが、そろそろまとめます。私は、一貫して、普通の人と同じように接してくださいと言ってきました。とはいえ、いろいろな気遣いが必要なことも確かです。私たちが、いくら気にしないでください、といっても、そちらとしてはそうも行かない、ということもあるでしょう。また、反対に、気づかなくて相手を傷付けてしまうこともあるかもしれません。

 何よりもお願いしておきたいのは、相手の立場に思いを馳せてください、ということです。先ほど車イスに乗ってみていただきましたが、それも、相手に対するイマジネーションを広げるためだと思ってください。介助するときは、介助することに必死になってしまうとは思いますが、介助される側の立場に自分を置き換えるということをやってみて欲しいのです。足が踏ん張れない状態で、車イスに乗るとしたら、どういう風に押して欲しいか、とか、動かない手を人が代わりに動かしたらどんな感じがするか、とか、自分の頭の上で、自分についての会話がどんどん進んでいったらどんな気分になるか、とか、一度置き換えて考えてみる、ということをして欲しいのです。

 もちろん、これは非常に難しいことです。一度も健常者だったことがない私たちにとっても、あなた方の身体の感じをイメージするのは非常に難しいことで、そのためしばしば無理な動きを要求したりしてますから。だからこそ、お互いにコミュニケーションをとること、言葉を伝え、ちゃんと聞くこと、相手のことを想像すること、というのがとても大切なんです。そして、想像したことをもう一度相手に伝え、聞き、もう一度想像する。

 いうまでもなく、ヘルパーさんと利用者との関係は人と人との関係です。直接身体を皆さんに預ける家事介助はもちろんのこと、家事介助でも、私たちはあなた方に自分の一部、あるいは全部を預けています。その意味で信頼されるに足る知識と技術をみなさんには身につけていただきたいと思います。ヘルパーさんとの関係の中で、私たちはあなた方への説明能力を高めていきますし、みなさんも、私たちにかかわる中で、技術だけではない、介助のさまざまな能力を高めていけるのだと思います。がんばってください。


玄関[I]どこまで[R]>ホームヘルパー2級養成講座[1] [2]
車椅子で彷徨えば扉
Yoonosuke Hazuki[Mail_ocean@mbc.nifty.com]