ホームヘルパー2級養成講座1

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 数年前、某大手ヘルパー派遣業者に依頼されて、2年間の間に4回ほど講義をしました。「これからヘルパーの資格を取る人のために、地域にいる各種エキスパートを」という一コマでして、接客業その他、いろんな人を呼んでいたようです。

90分講義でこの程度。そつなくまとめるせいか、気に入ってくださいまして、ほかで調達できないと呼んでくれた模様。

 とはいえ、養成講座は歩留まりが悪いということで廃止になり、よーのすけも、派遣されていた団体から脱退してしまったので、たぶんもう使うことはないでしょう。それに、今ならもっと違うことを言いそうな気がするし。

 よーのすけ、実はマジメなので、完全原稿作ってます。で、講義後、ネットに一定期間アップしてましたが、ダウンロードされた形跡はなく…。「全然聞き取れませんでした」って感想は来てたんですけどね。やる気ねえなあ。

 というわけで、この原稿を持つ人は誰もいないようですので、アップしちゃいます。ご自由にお使いください。

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導入

初めての障害者

 さて、今日、私がこちらから頂いたテーマは、これからヘルパーさんになる皆さんが、「障害者」と出会った時に、どうしたらいいかを話してください。というものでした。皆さん普通の生活の場に「障害者」がいることは、残念ながらあまりありませんからね。出会ったときに戸惑うことが多いと思います。かくいう私も、ずっと普通に小学校から大学へ行きまして、しばらくそこに残っていましたので、自分以外の障害者って見たことがなかったんです。ですから、大学生になって、初めてとある作業所に連れて行かれたときは、ホントに「どうしよう」って思いましたね。言っていることはわからないし、みなさん緊張は激しくて、手も足も突っ張ってるし、困ったなあ、って。自分のことは完全に棚に上げてますね。私が、同じ障害、脳性マヒと言うんですが、そういう人たちと出会った時でさえ、どうしよう、と思うんです。みなさんがどうしていいかわからず困ってしまうのは当然と言えば当然なんです。

 そこで今日は、そちらのコピーにあるように、まず、どういう風に接して欲しいか、ということ、つまりコミュニケーションですね、そして、二つめに障害を持つ身体、というのがどんなもんか、ということ、そして最後に、ここはヘルパー講座ですので、私たちの暮らしにとってヘルパーを使う、というのがどういうことなのか、ということをお話しさせて頂きたいと思います。

街で出会ったら

「障害を持つ」ことと、「普通に接する」こと

 ある友人がこんなことを言いました。この方は、二十歳を過ぎてから障害を負われて、割に最近車いすで活動するようになった人です。その方は「自動販売機で切符を買うときとかに、いきなりお手伝いしましょうか、って言われるととても戸惑う。」というんです。それ聞いて、私は、何で?と思ったんですが、その人が言うのには、「助けて欲しいときにはもちろんお願いするのだけど、何でもないのに手伝いましょうか、と言われると、自分が『普通の人じゃない』ことを思い知らされて嫌だ。」と言うんです。言われてみればごもっともなんですね。普通の人が自販機の前で財布を探っていても何も言われません。それが車いすに乗っていると声を掛けられる。私みたいに、物心付いた頃からみんなとは違っていて、じろじろ見られたりするのが当然、という人生送ってますとね、結構平気になっちゃってます。というか、平気にならないと出てこられない、というのが事実なんですけどね。でも、数年前まで「普通の人」だった彼女にとっては、それはとっても居心地が悪く感じる、ということなんです。そして、そっちの方が多分普通の感覚なんです。

 こういう言い方は身も蓋もないかもしれませんが、基本的には普通の人に言うのと同じように「普通に礼儀正しく接してください」の一言に尽きます。つまり、後から来る人のためにドアを開けておく、とか、エレベーターで人を押しのけて乗り込まない、とか、道をすれ違うときには身体を横にする、とか。本当なら全て誰に対してもしなければいけない身のこなしですよね。そういう動作の延長上に、障害者への配慮があるんです。普通の人に接するのと同じ程度に礼儀正しく、ということです。「あ、障害者だ。親切にしなきゃ。」というのは違うんです。

「障害者」ゆえの配慮

 とはいってもこの「普通に」というのが難しいんですよね。なにしろ相手は「障害者」ですから。

 手伝いたい、と思ったときに、声をかけるのは惜しまないで欲しいんです。ただ、「障害者だから困っているに違いない」というのはなしにしてくださいね。私たち、基本的に、「自分のペースでやれば自力でなんとかなる」という自信があるから一人で動いてます。それは皆さんと同じです。自動車の運転する人います? 自信がなければ首都高とか一人で乗らないでしょ。同じなんです。

 お手伝いしましょうか、と言ってくださるのはありがたいんですが、何と言いますか、ご自分のペースだけで声を掛けてくださる方が結構多いんです。手伝う方は「手伝いましょうか」と一言言えば済むんですけど、手伝われる方はいろいろ考えなきゃならないわけですよ。なにしろ初対面なんですもの。で、お願いします、と言おうとすると、大丈夫ですね、と、スッと行っちゃう。声だけ掛けて返事を聞かないんです。「障害」があると時としてやりとりが難しいことがあります。そのとき、相手のペースに合わせる、というか、相手をちゃんと見ることが大事になってきます。

 これは私が実際にあった例なんですが、ある駅の前を歩いていましてね。ちょっと起伏の大きいところで難儀していたんです。そうしましたら、いきなり後から「デパート行くんですか」と声をかけられ、車イスを引きずられてしまったんですよ。私はタクシー乗り場を探していたんです。なにしろ、この言語障害で息が上がってますから、返事が出来ない。力ずくで車イス取り戻さざるをえませんでした。コミュニケーションが全く成立していないんです。普通、知らない人をひっ抱えて行き先も確認せずにどこかへ連れて行ったりはしませんよね。

 みなさん、信じられないと思うでしょうが、この手の話はいろいろあります。車いすで電車に乗っていたら、親切そうなおばさんと目があった。そしたら、「次で降りるんですね。」と言われて、勝手に降ろされてしまった、とかですね。

 もちろん、とても上手にお手伝いしましょうか、と言ってくださる方もいます。私、車いす漕ぐのあまり漕ぐのうまくないんです。上半身のマヒも重いんです。これから皆さん実習で走ると思いますが、外の道って、あまり車いす向きではないですよね。で、よれよれ走ってましたら、通りかかった方が、「私はどこそこまで行きます。方向が一緒でしたら押していきましょうか。どこまで行かれます。」って言ってくれたんです。

 こんなこともありました。駅に直結するショッピングセンターに行こうとして渡り廊下を歩いていたら「この先は階段しかないですよ。」って教えてくれたんです。その人は「どこで繋がっているかは知らないけれど、とにかくこの先には階段しかない。」と。

 私がどうして困っているか、またこの先困るに違いないことを見て取って、そして自分が出来ることを申し出てくださっているわけです。話す前からコミュニケーションが出来ているわけですよ。

 耳が聞こえなかったり、口が不自由な人だったりすると、確かにやりとりが難しい部分はあります。それでも、必ず何か反応を返そうとします。それを辛抱強く読み取る努力だけを惜しまないでください。自分だけで納得しない、というのはとても大切なことです。

これは後でもう一度お話しすることにします。

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車椅子で彷徨えば扉
Yoonosuke Hazuki[Mail_ocean@mbc.nifty.com]