屋根裏の居候 7

水入り−主要政党の障害者政策

玄関[I]どこまで彷徨[R]> 2005/9/11 総選挙の行方

 チェ :障害者自立支援法案、あっさり廃案になっちゃいましたね。

 ルゥ :あれだけ議員会館前、国会前で大騒ぎして、何も変わらなかったのにね。障害を持つ当事者、支持者含めてとはいえ全国から1万2千人も集まったのよ。あの暑い中、生きてるだけでも大変な人たちが万の単位で集まったっていうのに、何も変わらないでさ。それが、変人宰相の一言で吹っ飛ぶんだから。

 チェ :継続審議ならず、廃案、ってなったのも、別に抗議活動がどうこう、っていうわけじゃなくて、単に即日解散になっちゃって、参議院の厚生労働委員会で継続審議の議決が出来なかった、っていうだけだし。即日解散しなくて、2、3日間が空いていたら、継続審議の議決してた話でしょう。

 ウィ :まあな。とはいうものの、審議をこれだけ引き延ばしたからこそ、流れたとも言えるし。ああして抵抗活動したからこそ、延びたわけやし。まあ、勝利、と言っていいんやないかねえ…。

 チェ :でも、厚生労働大臣は、この自立支援法案をそのまんま次期国会に提出する、って明言してますよ。付帯決議に沿った修正も何もしないで。

 ウィ :付帯決議? ああ、所得保障と就労支援の推進、やったっけ。一応所得保障を考慮する、って一文がはいってたな。

 ルゥ :でも、付帯決議って何の法的拘束力もないんでしょう。アレで何度だまされたことか、って、連戦錬磨の運動家が嘆いてた、って家主が言ってたけど。
それに、衆議院はあの自立支援法案で修正無し・文句なしで通過してるんだから、自民党が選挙で勝ったらそのまま出すのがスジよね。

 ウィ :そうなんよ。結局のところ、焦点は支援費の自己負担によるサービス量の抑制と、サービス支給の上限設定、医療費の減額、将来に向けて介護保険との統合による財源確保、ついでに出来たら介護保険並みへのサービス支給の引き下げ、やからねえ。いろいろ言ってるけど、その実、財務省の思惑が通りさえすればいいわけで。

 チェ :ま、選挙の焦点は郵政が通るか、というより小泉が勝つか負けるか、の一点なんでしょうけど。なんか、思い切りねじれてますよねえ。「思い切り小さな政府=小泉自民党」「極力小さな政府=民主党」、「ちょっとだけ小さな政府=国民新党」「そこは臨機応変に=公明党」でしょ。与党と野党が全然対抗関係に立ってなくて。

 ルゥ :どこ投票しても、とっても危険そう、っていうのが正直なところよね。民主党なんざ、真っ向反対、と言いながら、おおむね賛成できる、と、厚生労働委員会で発言してたし。

 ウィ :げ、そうなんかい。いや、民主党の場合、基本理念から考えると「もっと障害者は働け」という話になるんとちゃうか、という恐れがあるんやないかと思ってるんやが。

 チェ :民主党のマニフェストによるとですねえ…。ありゃりゃ、これまた介護保険と支援費の統合をやろう、っちゅうんですねえ。サービスのエイジレス化、を謳っておりますが。与野党ともに介護保険と支援費の統合をやる気だとなると、統合して欲しくない当事者団体としてはどこに投票するんでしょうねえ。

 ウィ :サービスのエイジレス化、そのものは、結構なことなんよ。たださ、それが、財務省による経費節約の思惑と絡むとやね、介護保険を障害者支援並みに、にはなるわけがなくて、障害者支援を介護保険並みに、になる公算が高いからねえ。障害者支援ったって、水準はまだ全然低いのに。
世界に冠たるニッポンを目指す今の国策を指向しながら、「障害」を抱える全ての人々の自立生活エイジレスに保証する、なんてしてみィ。財政パンクは間違いなしや。

 チェ :現に、介護保険があのレベルで破綻しかけて見直したわけですし、支援費財政も17億円足りない、つって今回の自立支援法案なんですもんね。そういや今回の選挙費用はは1発70億円だそうですが。もっとも、これは打ち上げ花火みたいなもんですから1回限りなんでいいんですけど。

 ルゥ :「精神障害者サービスを身体・知的と同じ水準にする。所得保障制度の確立。障害者福祉予算の拡充。障害種別(身体・知的・精神)ごとに分かれ、その他の障がいや難病などに対応できていない現在の障がい者政策・法制度を抜本的に見直した、包括的な障がい者福祉法を制定」すると言ってるけど。

 ウィ :所得保障以外は、さきの支援法案と同じやろ。所得は保障するから、あとは自分でお金払ってサービスお買い求めになったらよろしいでしょう。それで儲かるようになれば、サービス供給元も増え、競争が生まれて、料金値下げになるでしょう、っていう話なわけや。まあ、ひたすらサービス料支払え、金もやらん、上限は付けたる、ゆうのよりかはましやけどな。

 チェ :値下げになったら、保障も減額出来るし、一石二鳥♪ ってわけか。

 ルゥ :そこまで言わなくても。サービス供給は市場任せに、ってことよね。障害者市場は圧倒的に小さいし、コストもかかりますから、サービス供給ったって「絵に描いたモチ」になるんじゃないか、っていう懸念が出るわけよね

 ウィ :そこはまあ、介護保険事業指定と抱き合わせにして、年寄り事業やるなら障害者もやらなあかん、しかも指定の認定受けるにはこれだけのサービス事業を展開せなあかんゆうて、内容でギリギリ締め上げればなんとかなるやろうけど。でも、「市場経済活性化のための規制緩和」に向かう現在の潮流を考えるとそれはどうかな、っていうところはあるね。

 チェ :それに、「所得保障」も、自立していない障害者が多いニッポンの障害者事情考えると実は危険だったりするわけでしょ。年金ガーンと増やしちゃったりすると。

 ウィ :アメリカ型への転換やね。そうなんよ。高齢者もそういうトコがあるねんけど、障害児から障害者になった人の場合、親が子の年金を食っちゃってるケースも結構あってね。そんなケースで所得増やしちゃうと、障害者の金づる化、搾取がますます進んでいくんとちゃうか、とゆう恐れは十分にある。そんなケースで現金収入増やしてみィ。自立どころか、ふん縛っても手元に置きたい、とゆうことになるで。なんせ1級障害者なら月々8万やで。だったら支給する目的を決めるか現物支給の方がええ、ということになる。一筋縄ではいかないのよ。

 ルゥ :それだけ「障害者」が、本人の状況も置かれた環境も多様だ、ってことでしょうよ。絶対に一枚板ではありえない。だから、今回の自立支援法案廃案で、落胆している障害者も大勢いる。

 ウィ :うん。精神障害者グループなんかは、がっかり派も多いね。なにしろ、この法案でようやく「精神障害者」が「精神病者」じゃなくて「障害者」として政策の中に取り込まれることになるはずだったわけだから。これで一気に施策が進むんじゃないか、って期待はおおきかったからね。
せやけど、自立支援法案は何せの自己負担やからね。精神保健福祉法32条の通院医療費公費負担制度、いわゆる32条規定、って呼ばれている制度があって、住民税非課税世帯者には医療費が公費負担になって全額免除になったりするんやけど、これがなくなり、一律2割負担になることになっとる。ウチの家主みたいに、「行ける病院がネェぞ」って騒いでるだけで済んでる障害者と違って、精神障害者の場合は、ちょっと様子がおかしい、と感じたらすぐに病院に駆け込める、という環境作りが欠かせないんや。すぐ病院に駆け込めないと、あとで取り返しが付かなくなる、という恐怖は常にあるからな。せやから、この32条規定の廃止で、ものすごく不安になっとる人は多い。お金がなくて病院に行けなかったらどうしよう、っていう恐怖がな。

 ルゥ :低所得者には不利になる制度と同時に、障害者雇用枠に精神障害者も算入する、といったような障害者支援への統合も入れてあったりして。医療費負担と生活支援の拡充と、どちらをとるか、少なくともどちらを優先させるか、という厳しい選択なわけよね。

 ウィ :医療費の2割負担がさほど気にならないレベルの人にとっては、そりゃまずは何よりも障害者としての支援を一日も早く受けて社会復帰したい、ということになるからね。去年(2004年)に発表された「グランドデザイン」の最大の「功労」は、「障害者」を見事に分裂させた、ってことだった、というよ。これまでは、一律に劣悪な処遇を強いてきたからね。スーパーマンでなきゃ、がんばれっこない、っていう制度をなんとかせえ、という状況下では団結もできたんやけど。

 ルゥ :ここまでがんばれる人なら、努力に応じた生活をさせてあげますよ、と言われて、しかもそこそこなんとかなる人も出そうな位置にハードルを下げられてしまうとねえ。もともと状況が違う人たちが、「大変だ」という一点だけで団結してたわけだし、「仲間」なんだから、といってもねえ。

 チェ :難しい部分があるよなあ。

 ウィ :グランドデザイン・自立支援法案の問題点、ってたくさんあると思うけど、一番問題なのは、自立するため、いや、社会の一員になるために、「障害者」自身が努力しなさい、努力できない人は受け入れてあげません、という態度があからさまに出ていることなんだよ。ここ数年、そおゆうことは、少なくともためらいがちしか言っちゃいけない、という了解が出来つつあったんやけど、グランドデザイン以降、そんな潮流をものともせずに蹴散らしちまった。

 チェ :がんばれた人には「一人前」の会員証を差し上げます。高級クラブみたいなもんですな。ステータスですな。そりゃ、ウチの家主みたいなタイプの自尊心くすぐりますぜ。

 ウィ :やろ。ウチの家主、今でこそ周囲に仲間たちが大勢いて、彼らのたちの状況見てるから反対ゆうてるけど、手前のアイデンティティからしたら、むしろ支援法案賛成のはずや。差別なしにちゃんと仕事して一人前の給料取れるようにする?結構じゃないの、ってゆうで。というか、手前にとっちゃどっちになっても変わらない、と思ってる。

 チェ :ってか、大半の障害者がそうなんじゃないんスか。少なくとも、そこそこがんばれる程度に教育が受けられたり、家族のバックアップを得て就職できちゃったりしてる、社会的な地位を持ってる障害者は。

 ウィ :そうなんよねえ。だから、実際の政策も、「真っ向反対」と言いながら、同色バリエーションしかないんだろうね。

 チェ :自民党の公約なんかステキに貧相ですよ。120項のうち16項目なんですけどね。「障害者の自立した地域生活を支援するための支援を推進。全ての障害者が必要なサービスを受けられるよう、サービス地域偏在の解消を図りつつ、遅れている精神障害者の保健福祉政策を含めハード・ソフトの基盤を抜本的に充実強化する障害者自立支援法案の早期の成立を期する。雇用と福祉の連携による福祉的就労から雇用への移行等を目指した改正障害者雇用促進法の着実な実施を進める。地方分権とあわせて地方行政改革を実行します。」ですよ。つまり、今回の自立支援法案は、地域生活促進のベストな法案なのでこれを成立させます。「普通に」就労できるようにします。自立支援法でサービスの地域格差をなくす予定ですが、あとは地方行政に丸投げします、と。

 ルゥ :自立支援法案っていう形で、具体的な制度案を出してるだけマシかもね。

 ウィ :どっちゃにしろ、このまま自民党が勝っちまえば、障害者自立支援法案をそのまま通すということよ。それが自民党の公約なんやから。ま、いい方に転ぶか悪い方に転ぶかはともかくとして、ちーとでも変化が欲しきゃ政権交代を望むだな。ギャンブルやけど、「変わるかもしれない」っていう鉄槌が頭上にあるのは、財務省にとっても厚生労働省にとっても緊張感が違うやろうしね。

 チェ :滅茶苦茶に投票したくない選択肢なんでしょうけど、選択せにゃならんもんは仕方ないでしょうね。なんせ地球人自身のことは自分で責任持つしかないっスもんね。選挙は行かないと…。オレらはラトシュツール人だから関係ないけど。

 ルゥ :アタシたち、地球を征服しに来てんのよ。征服する相手が、ちゃんと選挙で投票して自分たちのこと自分たちで責任持ててるかどうか心配してどーすんのよ。


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Yoonosuke Hazuki[Mail_ocean@mbc.nifty.com]