なんでこう来るの

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エピソード
最新 2003/04/04

F=kma 摩擦係数は?

ある土曜の午後のこと。雨だというのに、よーのすけは、妹くんと、道を歩いていました。大した雨ではありませんでしたが、よーのすけは、ゴムぴきのレインコートを着、妹くんの方に傘をさしていました。
 横断歩道を渡り、歩道に上がるところで、アスファルトが少し崩れかけ、ほんの2cmくらいの段差ができていました。普通なら、一気にえいやっ、と突っ切るところです。ところが。
 ごつん、するっ。
 するっ? と思ったときには、よーのすけは、足置きの上におしりをのせていました。傘を放り出して、シートによじ登ろうにも力が入らない。足置きの下は、わっ、水たまりじゃん。妹くんは、といえば、車椅子が後ろに転がらないように、支えているので精一杯。絶体絶命の大ピンチ。
 そのときは、たまたま通りかかったご夫婦に助けられましたが。
 雨で視界が鈍り、妹くんがスピードと段差を見誤ったのも、一つですが、レーンコートがシリコン加工してあった のを甘く見たのがいけなかった。普段なら片手がふさがっていたって、落ちるもんじゃありません。それが、ものの見事にするりんと前へ飛び出した。慣性の法則と「質量が一定のとき、力と加速は比例する」というあの式を実感しました。あんなに勢いがついているとは思わなんだ。
 「こつん」は、しょっちゅうあり、落ちたことなんかないんですけどねえ。赤になりかけの信号を走ってわたってもらっても、全く平気のよーのすけですが、「あまり速く押されると怖い」という方の気持ちが少し分かりました。

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どこに連れて行こうってのさ?

これもある土曜の午後のこと。
 初めて降りた駅で、よーのすけは、探していたタクシー乗り場を見つけ、でっかい書類鞄がずり落ちてくるので難儀しつつ、えっちらおっちら車椅子をこいでいました。すると、一人のご婦人が、見かねて、押しましょう、と押してくれました。そこまでは良かったんですが、「どこへ行くんですか」と尋ねるのに、「タクシー乗り場だ」というこちらの答えなど聞きやしない。タクシー乗り場を過ぎそうになったので、無理矢理に止めました。こういう場合、「止める」のは危険なので、片輪だけブレーキをかけます。そうすると、くるんと回って止まります。タクシーに乗るんだと言っても、近くのデパートに連れていこうとするので、仕方なく、タクシーに向かってこぎ始めると、やっと理解して、タクシーに乗せてくれましたが。
 手伝ってくれるのはありがたいけど、意思の疎通のはかれない人に車椅子を押されるというのは、正直言って怖いです。声が聞き取りにくかったら、耳の位置を下げてくれと言いたいのだけれども。それをどう伝えるかが、最大の問題ですかな。
 そういえば、一度、あてもなくウィンドーショッピングをしていて、黒人の酔っ払いさんに、「どこへ行くんだ、連れて行ってやる。」と、親切にされ(からまれ)たことがあります。あのときは困った。

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思い違いもほどほどに

 同じホームで電車を乗り換えたときのこと。
 どうせ同じホームなので、乗客に頼んでもよかったのですが、目的地の駅が手運びで、連絡の都合上、駅員さんの手で乗り換えることになりました。
 担当してくれた駅員氏は、すこぶる愛想の良い初老の人で。
「どこからいらしたんですか。渋谷? コンサートですか?(珍しく、ライブではなかった) え、仕事? そんなに稼いでどうするんですか。いやぁ、私も、甥っ子が足が悪くて車椅子使ってるんですよ。だから、車椅子のことよく知ってますよ。」
へぇへぇ、そうでござんすか…。よーのすけ、このとき、車椅子車両と、到着駅のホームの都合で、一番前の車両に乗ってました。それを、「ここは、車椅子車両来ないんで、後ろへ行きましょう。」おいおい、後ろに行っちゃうと、到着駅のホームと列車間の段差が凄い上に、階段から遠くなっちまうんだが、と思いましたが、5号車のところで止まったので、黙ってました。
 「甥っ子が車椅子なので、車椅子は慣れてます」を繰り返す駅員氏に適当に相づちを打っているところへ、電車が入ってきます。と、くるっと車椅子回れ右をする駅員氏。こらぁ、何さらすんねん…じゃなかった、ちょっと、何するんですか!と声を上げると、「段差なので、後ろから上げます。大丈夫。甥っ子が、車椅子なので。」 あなたの甥っ子は車椅子ユーザーかもしれないが、段差を上げるときは前から上げるんだっ。「大丈夫。わかってますから、安心して下さい。甥っ子が、車椅子なので。」 あなたの甥っ子が車椅子ユーザーなのはわかってるが、キミはなんにもわかっとらんっ!
 まともに上げれば片手で上がる電車のステップを、この駅員氏、大汗かいて引っ張りああげ、よーのすけは、落ちないように踏ん張り…いや、足に踏ん張る力があってよかったよ。完全マヒだったら間違いなく落ちてますね。いや、むしろ落ちてやった方が、よーのすけの後、この駅員氏の担当になった車椅子ユーザーのためにはよかったかも。
 その後、この駅での乗り換えしてないんですか、誰か1人くらい落ちてないかなあ。よーのすけとしたことが、名札見るのわすれちゃって。今度出くわしたら…。

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車椅子で彷徨えば扉
Yoonosuke Hazuki[MailTo_ocean@mbc.nifty.com]